腰痛~はじめに~
まず、腰痛とは病名ではなく、さまざまな原因で起こる腰の痛みの総称です。
一般的に背骨と呼ばれる脊柱は、椎骨が積み木のように積み重なって形成されており、上から7個を頸椎、次の12個を胸椎、その次の5個を腰椎といいます。
ちなみに腰椎の下には9個の椎骨が融合して仙骨と尾骨を形成しています。
脊椎は小さな24個の椎骨の集合体ですが、骨同士がそのまま連結していたのでは、やがて削れてとんでもない痛みが出てしまうでしょう。
歩いたときに足から受ける衝撃も、そのまま頭の先まで伝わってしまいます。
そのため、1つ1つの椎骨の間には、椎間板というクッションの役割を果たすものがあります。
椎間板が脊椎にかかる負担を吸収して、分散する働きをしています。
二段構造になっている椎間板は、中心部分に髄核という柔らかい組織があり、髄核を包み込むようにして繊維輪軟骨という軟骨組織から成り立っています。
腰痛の中でも比較的症例の多い椎間板ヘルニアは、この椎間板の繊維輪軟骨が破れて中心の髄核が外に飛び出すことから起こります。
椎間板ヘルニアについては後で説明します。
脊椎を身体の側面から見ると、前方と後方にゆるやかなカーブ(生理的彎曲)を描いていてS字状になっています。
頚椎は前方に弧を描き(頚椎前弯)、胸椎は後方に弧を描き(胸椎後弯)、腰椎では再び前方に弧を描き(腰椎前弯)、骨盤の前傾とともに仙椎は後方に弧を描き、脊椎の生理的なS字状カーブを描いています。
この生理的彎曲の脊椎のS字状のカーブにより身体のバランスを保ち、約5kgある頭部の重量を支えて地面からの反作用をも吸収し、2本足で立ったり歩行したりしているのです。
脊椎は身体のバランスを保っているだけではなく、上半身を前後左右に曲げたり捻転したりなどの様々な動作に対応できる構造ですから、逆に身体のゆがみにより背骨のゆがみが生じてしまうと身体のバランスを保てなくなり、腰痛の症状に悩むことにつながる可能性が高くなります。
脊椎の中心には、脊柱管という空間があります。
中には身体にとって重要な神経の脊髄中枢神経があります。
脊髄中枢神経は、身体のあらゆる部分に脳からの信号、生体電流を末梢神経に伝える役割をしています。
身体の隅々まで広がっている末梢神経は、脊髄中枢神経を始まりとして、身体の各部分に信号を送っていると言うことです。
背骨は身体の姿勢を保つ役割をしていると共に、末梢神経の始まりの部分として、生体電流の中継地点として、私たちが生きて行く中で、2つのとても重要な役割を担っていると言えるのです。
また、腰痛に関わっている主な筋肉としては、次の筋肉が考えられます。
「脊柱起立筋群」
背骨の左右両脇に首から肋骨、骨盤上部まで分布して付着し、背骨を伸展(後ろに反る)させて、背骨と胸郭(胸骨と肋骨で出来た骨格)とのバランスを維持する筋肉です。
「腰方形筋」
腰椎の左右に一対付着しながら、上部は第12肋骨、下部は腸骨上端に付着し、背骨の屈曲・伸展(腰を前に曲げる・後ろに腰を反る)や左右への側屈に使われる筋肉です。
「腸腰筋(大腰筋・腸骨筋)」
股関節を屈曲する(歩いたり、階段を登ったりする)動作に使う筋肉です。
代表的なインナーマッスル(深層筋)で、体の中央に位置しているため非常に重要な筋肉であると言われています
「大臀筋」
太ももを背面側に曲げる(伸展する)動作に多く使われる筋肉です。(階段を上る・座った状態から立ちあがるなど)
「中臀筋」
小臀筋と共に太ももを外に開けたり(外転)、爪先を外に向けたり(外旋)する動作に用いられ、歩行時に骨盤を固定する筋肉です。
「小臀筋」
中臀筋と共に太ももを外に開けたり、逆に爪先を内側に回す(内旋)動作に使われる筋肉です。
「広背筋」
腕を内転(胴体の方へ寄せる)したり、内旋(腕の軸を中心に内側に回す)、伸展(肩から後ろへ腕を動かす)などの動作に使われる筋肉です。
「腸脛靭帯」
股関節を曲げたり(屈曲)、外に開けたり(外転)、内側に回したり(内旋)、また股関節外側を固定し安定させる筋肉です。
この他にもたくさんの筋肉があり、それぞれの役割を果たすことにより、人間の身体は2本足で立ち姿勢を維持することができ、さまざまな動きも可能になっているのです。
ところで、腰痛の原因は大きく分けると、「レントゲンなどの画像検査で原因が特定できる腰痛」と、「原因が特定できない腰痛」の2つがあります。
「整形外科を受診したが、特に異常はない」という経験をした方も多くいると思いますが、じつは「レントゲンなどの画像検査により原因が特定できる腰痛」は全体のわずか約15%で、「原因が特定できない腰痛」は約85%もあると言われています。
腰痛~画像検査で原因が特定できる腰痛~
《骨(腰椎)、筋肉、椎間板の障害によって起こる腰痛》
圧迫骨折、腰椎椎間板ヘルニア、脊柱分離症、脊柱すべり症、脊柱管狭窄症、がんの転移、細菌の感染などがあります。
この場合は、背骨が物理的に損傷しているので、レントゲン検査などで確認できます。
圧迫骨折
老化によって骨が弱くなった結果、転んだりぶつけたりした拍子に、背骨に瞬間的に大きな圧力がかかることにより椎骨に骨折を起こします。
骨粗鬆症の方は要注意です。
骨粗鬆症は、骨量が減少して骨がもろくなる病気で、骨折しやすくなります。
閉経後の女性に多く、高齢になると男性にも増加してきます。
骨は身体を支える役目と同時に体内のカルシウム貯蔵庫としての役目を担い、日々代謝をしています。
この骨代謝のバランスが崩れ、骨の吸収が多くなったり、骨の再生が少なくなると、骨量が減少します。骨は永久不変ではなく、少しずつ変わっているのです。
骨粗鬆症になっても自覚症状はほとんどなく、骨折が起きて初めて痛みなどの症状が現れます。背骨は骨粗鬆症による骨折の起こりやすい部位の一つで、主に椎体がつぶれるように折れ、胸椎によく起こります。
骨粗鬆症による骨折は転倒などで急激に起こることもありますが、背骨の場合、徐々に潰れて変形し、高齢者の頑固な慢性腰痛の原因となっていることが少なくありません。
こうした骨折が起こると、なんとなく疲れやすくなり、やがて腰痛が現れます。
背骨の変形が進むにつれ、背中が丸くなり、身長が縮んできます。
背骨の骨折は日常生活の活動性を低下させ、高齢者の寝たきりの原因にもなりかねません。
大きく変形すると、内臓の働きに影響が及ぶこともあります。
腰椎椎間板ヘルニア
ヘルニアとは「突出した状態」のことを指し、椎間板ヘルニアは椎間板が突出した状態のことを言います。
腰に大きな負担がかかり、クッションの役割をしている椎間板にヒビが入り、内部にある髄核というゼリー状の物質が膨らんだり、飛び出したりして脊髄中枢神経や末梢神経を圧迫、刺激することで激しい腰痛をもたらします。
多くの場合、麻痺やしびれなど神経症状を伴い、腰痛に加えて「腰や脚に麻痺が起こる」「歩くと脚に痛みやしびれ、脱力感がある」「つま先立ちやかかと立ちができない」などの症状がある場合には、腰椎椎間板ヘルニアが起きている可能性があります。
腰痛や痺れは、前かがみの姿勢になったときに強くなることが多く、おじぎができないといった運動制限も起こります。
物を持ったり、前かがみになると椎間板の内圧が高まり、ヘルニアが後方の神経根をより強く圧迫、刺激します。
そのため、症状が強くなるのです。
逆に、姿勢によっては、痛みが軽くなるのもこのためです。
また、坐骨神経につながっている神経の根元が刺激されると、「坐骨神経痛」の症状が現れることもあります。
腰だけでなく、脚に響くような痛みや痺れなどの症状で、脱力感を伴うこともあります。
さらに、ヘルニアが脊髄の末端に続く馬尾という神経まで障害すると、膀胱などの働きにも影響して、排尿などの異常が見られることもあります。
この場合には、重症と言えます。
ちなみに、問診でヘルニアを申告される方が多くいますが、症状などを聞くかぎり、当院ではヘルニアによる腰痛、坐骨神経痛の方は今まで一人もいませんでした。
実際に、皆さん単なる腰痛でした。
前述のとおり、ヘルニアとはゼリー状の髄核が椎間板から飛び出して脊髄中枢神経や末梢神経に纏わり付いて圧迫、刺激することで激しい痛みを引き起こすもので、痛みの体勢によって痛みに強弱はあっても、神経に纏わり付いた髄核が体内の物質が作用することによって消滅しない限り一時的にも痛みが消えることはありません。
神経に纏わり付いた髄核が自然消滅するには1ケ月程度の時間を要します。
また、整体やマッサージなどで神経に纏わり付いた髄核を取り除くこともできません。
つまり、本当にヘルニアによる腰痛や坐骨神経痛であれば、断続的ではなく、約1ケ月間持続的な痛みに悩まされることになり、整体やマッサージ、リハビリで治るものではありません。
痛みが治まるまで我慢するか、その場しのぎで根本治療ではないにしても神経ブロック注射で一時的に痛みの伝達を遮断するしかありません。
腰椎分離症
椎骨の椎弓部分が折れ、椎体と椎弓が離れてしまった状態を腰椎分離症と言います。
先天性のものと後天性のものがあり、先天性のものは生まれつきのもので、後天性のものは成長期にスポーツなどで繰り返し負荷がかかったために疲労骨折を起こしたものです。
第4腰椎と第5腰椎に多く見られます。
日本人の約4~6%の人に脊椎分離症があると言われています。
脊椎分離症では、分離した腰椎とその上の腰椎の連結がなくなることによって不安定になり、周辺の靭帯や筋肉に負担がかかって腰痛が起こります。
そのため、長時間同じ姿勢で立っていると負担が集中して痛みを強く感じるようになります。
腰椎すべり症
分離症のなかで、椎管関節による支持性がないため椎体が前方にずれてくるものを「分離すべり症」といい、椎間板の老化による不安定性が原因でずれたものを「変性すべり症」といいます。
最初に「脊柱は椎骨は積み木のように積み重なって形成されており・・・」と説明しましたが、その積み木の一部がずれることにより、椎間板に悪影響をもたらしたり、神経を刺激して、腰痛を引き起こします。
脊柱管狭窄症
背骨(脊柱)が加齢によって変形することにより、中の脊髄中枢神経が通る空間(脊柱管)が狭くなり、神経が圧迫されて腰痛や神経症状(痺れ)が現れる病気です。
また、背骨が歪んでいる場合も脊髄中枢神経が通る空間が狭くなり、神経を圧迫することがあります。
ごく僅かですが、生まれつき脊柱管が狭い場合もあります。
腰椎椎間板ヘルニアと同じように麻痺やしびれ、排尿障害などの神経症状がでることがありますが、腰椎椎間板ヘルニアでは前屈みになると症状が強くなり体を反らせると楽になりますが、脊柱管狭窄症では体を反らせると症状が強くなり前屈みになると楽になります。
脊柱間狭窄症で最も特徴的なのは、歩き続けていると徐々に下肢が重たくなったり、お尻、太もも、ふくらはぎがしびれ、歩くのが辛くなります。
しかし、しゃがんで少し休んだり、前屈みになったりすると症状が消え、また歩けるようになります。
この症状を間欠跛行と言います。
《がんや細菌感染によって起こる腰痛》
がんや細菌感染によって起こる腰痛の場合は、命に関わる危険な腰痛なので、「安静にしているときにも痛む」「日に日に痛みが強くなる」「発熱を伴う」といった症状がある場合には、整形外科を受診することをお勧めします。
がんの転移
がんは、肺や肝臓、脳などの内臓だけではなく、骨や脊椎にも転移することがあります。
骨や脊椎に転移しやすく、注意が必要ながんは、肺がん、乳がん、前立腺がん、腎がん、甲状腺がん、肝がん、骨髄腫、悪性リンパ腫などです。
がんが脊椎に転移すると、強い痛みが起きるだけではなく、脊椎まひを起こして歩行障害になったりすることがあるので、注意が必要です。
がんが脊椎に転移した場合の腰痛の症状は、じっとしていても頑固な痛みが続くことです。
痛みは、転移した場所にもよりますが、強いことが多く、安静に横になっていても治まらないので痛みで眠れないということもあります。
脊椎にがんが転移した場合の治療方法は、手術療法や放射線治療、化学療法によってがんの拡大を防ぎ、がんを除去します。
また、がんが原因で脊椎にまひが生じているようなときには、脊椎を補強する手術を行います。
神経を圧迫しているような場合には、神経の圧迫を取り除くような手術を行います。
これらの手術によって、優れた除痛効果が期待できます。
細菌感染
免疫力の低下により、骨に黄色ブドウ球菌などの細菌が感染、膿が溜まり炎症を起こすことにより痛みが出ます。
《内臓や血管の疾患によって起こる腰痛》
腰椎に異常がなくても、腰の近くにある臓器に疾患があると、周囲の神経が刺激されて腰痛を引き起こすことがあります。
胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胆石、すい炎、大腸がんなど消化器系の疾患の場合では、食事に伴って腰痛が起きたり、痛みが強まったりします。
腎・尿路結石、腎炎など泌尿器系の疾患の場合では排尿時に、子宮筋腫、卵巣腫瘍、子宮内膜症など婦人科系の疾患では月経時に、腰痛が起こったり、痛みが強まったりします。
循環器系の疾患で言えば解離性大動脈瘤の場合、非常に強い痛みにより血圧が急激に低下し、意識を失ったりすることもあります。
腰痛~画像検査で原因が特定できない腰痛~
《筋肉の疲労、筋力の低下、骨格の歪みによって起こる腰痛(一般的な腰痛)》
長時間のスポーツや長時間のデスクワークなど同じ姿勢をとり続けることによる筋肉の疲労、運動不足による筋力の低下、悪い姿勢や重い荷物をいつも片側の肩にかけることによる骨格の歪みによって全身の筋肉のバランスが崩れ、腰や背中に負担がかかって腰痛が起こります。
日常多く見られる腰痛で、筋肉の疲労により、腰を支える筋肉の力が低下し、血液循環が悪くなることにより、疲労物質が蓄積され、ますます筋肉の緊張も強まります。
習慣的になっていることが多く、日常生活の中での悪い習慣の是正やストレッチなどにより筋肉の緊張を緩和することが大切です。
《急性腰痛症》
急激に発症した腰痛のことで、一般的には「ぎっくり腰」と呼ばれています。
「魔女の一撃」とも呼ばれており、何かしようと身体を動かしたときに、ギクッと腰に痛みが走り、少し身体を動かそうとするだけで激痛が走る症状です。
声もあげる余裕もなく、その場にうずくまってしまうほどの強い痛みが生じます。
ぎっくり腰は、不自然な姿勢を続けたり、不用意な動作を行ったり、中腰の姿勢や同じ姿勢を続けたときに起こりやすい腰痛です。
ぎっくり腰は「捻挫」に例えられます。
椎間板や椎間靭帯、筋肉や筋膜の損傷によって激しい腰痛に襲われるわけですが、急性期と呼ばれる痛みが強いはじめの2~3日は、腰に負担がかからない楽な姿勢をとり、安静にします。
無理に動こうとしては逆効果で、症状を悪化させてしまいます。
急性期が過ぎて痛みが治まってきたら、患部を温め血行を良くします。
ぎっくり腰になると、その後の1年間で約4分の1の方が再発すると言われています。
「腰に負担がかかるような無理な姿勢をとらない」「ストレスを軽減する」「適度な運動をする」「腰への負担を減らすため肥満を防ぐ」など、日常生活の中で再発防止に取り組むことが大切です。
《精神的ストレスによって起こる腰痛》
精神的ストレスも腰痛の原因となることもわかってきました。
ストレスによって神経が過敏になると、弱い痛みも強い痛みとして感じてしまいます。
そして、痛みがあるから動かない、動かないことがストレスになる、そのストレスでさらに神経が過敏になり腰痛が強くなるという悪循環が起こり、ますます腰痛を悪化させます。
体を動かしてストレスを溜めないことも大切です。
腰痛~腰痛の予防~
腰痛はほとんどの場合が、生活習慣の中に問題があります。
姿勢や動作、規則正しい生活リズムといった生活習慣の改善や入浴、睡眠(休養)、ちょっとした運動や体操、ストレッチの実践に取り組んでみてはいかがでしょうか。
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